日本のCREに新たな夜明け

20160308CRE

新たなコーポレートガバナンス・コードの導入は、日本企業に事業生産性と株主還元の改善を通じて企業価値を向上させることを迫っている。その実現の鍵の一つである企業不動産(CRE)戦略にも再考が求められている。

日本企業は比較的社内閉鎖的な文化を持つものと認識されている。このことが、これまではコーポレート・ガバナンス推進における重大なネックとなってきた。

エコノミスト誌の記事が指摘している様に、日本企業は比較的社内閉鎖的な文化を持つものと認識されている。このことが、これまではコーポレート・ガバナンス推進における重大なネックとなってきた。

また欧米企業と比べて、日本企業の経営層に積極的な生産性向上の意識が欠如していることがコーポレート・ガバナンスの進展を妨げてきた要因の一つである、とJLL日本のオキュパイヤーサービス統括部長 佐藤俊朗は述べている。不動産戦略の判断においても、企業価値を向上させる成果よりも、社内で長年使われてきた物差しを軸に評価する、旧態依然とした経営システムが多くの日本企業に未だに存在している。

変革の兆し

2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが施行されたことで、日本企業は、社員の働き方における生産性向上とプロセスの効率化を図ること等を通じて、株主資本利益率(ROE)を高める新しい事業運営の方法を模索する必要に迫られている。

ガバナンス・コードでは、CREを直接取り上げてはいないものの、間接的には従来にも増して不動産資産を綿密に分析・評価し、優先順位を見直すことを経営課題の一つとすることを日本企業に迫っているものである、と佐藤は考えている。

同氏は「日本では他の先進国と比べて、不動産の総資産に占める割合が高い。そのため、CREサービスプロバイダーの専門知識は、日本企業に大きく貢献し得る」と指摘している。

進展を阻む要因

ここで佐藤は、典型的な日本の製造販売メーカーの現状を描き出すために、500の営業所と20の製造施設に加え、倉庫と小売店舗を有する日本企業の想定事例を挙げている。この企業では各事業部門が独立して運営されているため、分散化している。「計1,000名以上もの従業員が何らかの立場で不動産関連業務に関わっている可能性がある。CRE機能をアウトソーシングすれば、この人数は100名程度に減らせるだろう」と言う。

この分断化、分散化された構造については、JLLのレポート『JLL’s Japan Corporate Real Estate Trends 2015』(『企業不動産のグローバルトレンド 2015年』)の結果でも、日本企業が他のグローバル企業と比べて組織の集約化で大幅に後れを取っていることが明らかに指摘されている。日本のCREチームの54%が日本国内のみならずグローバルに業務責任範囲を持っているとしているが、21%はCRE部門のグローバル責任者が不在で、世界の水準を大きく下回っている。加えて、日本のCRE担当者の内、CRE専任部署に所属しているのはわずか21%に過ぎない。

一方で、日本企業においても、大半のCRE担当者は、ワークプレース、業務、資産および人の生産性向上を求める経営トップの強い要求に直面していることが示されている。

JLLのレポートでは「CRE部門のサービスは、専任の部署が関与せずともうまく実施される場合もあるとはいえ、当社の経験によれば、専任部署を置くことと、経営トップの要求を満たすための対応能力および効果との間には相関関係がある」とも指摘している。

より良い成果の実現

佐藤は、今後の課題は日本企業にCRE機能のアウトソ-シングの重要性へ関心を高めることにあると考えている。多くの日本企業は、社内のみでCRE業務を遂行することの潜在的な非効率性にまだ気付いていない。

「CRE機能をアウトソ-シングは、総資本利益率(ROA)の最適化につながる」と佐藤は指摘する。まずは、企業内に無い広範な知識を持つ外部のCRE専門家の起用により、不動産への資本投資戦略を大幅に改善させることかできる。加えて、専門家のより広範な視点やノウハウ、を活用して、不動産のオペレーションコストを低下させ利益貢献することで、ROA等の資本効率を改善することができるのだと言う。

前述の製造会社の想定例で言えば、CRE機能のアウトソ-シングによって、コストは容易に10%超削減できるだろうと佐藤は指摘する。「5年間で、この削減率は30%にもなり得る」とも述べている。ROAが上昇すれば、ROEにも好ましい影響が及ぶ。

コーポレート・ガバナンス・コードでは、企業の取締役会に広い知見を持った社外人材を登用することで企業のガバナンスを強化することを規定している。この流れは同様に、日本企業が取締役会のみならず、より広範囲かつ一般的に外部の専門家を起用することを必然的に促進することになるのではないか考えられる。

CREサービスプロバイダーは、企業のCRE機能へ専門的な知識やスキルをもたらす。そのことが、よりコアビジネスに人材を集中させ、CRE戦略を最適化し、コーポレートガバナンスを押し上げ、株主利益の向上に良いインパクトをもたらすのである。



* JLL 「企業不動産(CRE)のグローバルトレンド 2015年」日本企業およびグローバル企業のCRE促進に関する調査レポートはこちら

著者:
佐藤 俊朗
ジョーンズ ラング ラサール株式会社 マーケッツ事業部