オフィス移転は、増員による拡張、コスト削減、リクルーティングの為の立地改善、近年ではグリーンビルディングによる環境、社会、ガバナンス(ESG)への配慮、従業員のウエルネスの向上など、いくつもの多様な動機に基づきます。企業の目的を実現する為のオフィス移転をする際に参考となる、主要エリアの賃貸オフィスの賃料相場と動向について解説致します。
賃貸オフィスの賃料を見る上でのポイントとは?
賃貸オフィスの賃料は、竣工年・立地・規模等の条件が、竣工が新しい→古い、駅から近い→遠い、規模が大きい→小さいと、個別差はあるものの、賃料が高い→低いと比例します。
また、オフィスの賃料相場はオフィス空室率のマーケットによって変動します。需要と供給バランスで空室率が高くなれば、賃料は下落傾向になります。近年では、セットアップオフィスや環境に配慮したグリーンビルディング等の、テナントのニーズに合った付加価値のある賃貸オフィスが増加しています。付加価値のある賃貸オフィスは、同等の条件の通常のオフィスと比較した場合、若干賃料が高い傾向がみられますが、結果としてコスト削減効果やサステナビリティに対応する事によるメリットに結びつきます。
東京エリアのオフィス賃貸相場と動向
都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)の2022年第3四半期末時点のAグレードオフィス賃料は月額坪当たり35,002円です。前四半期比413円/坪の下落、前年同期比1,930円/坪の下落となり、10四半期連続の下落となり、特に、平均以上の空室を抱えるビルが多いエリアで賃料の下落が見られました。
第3四半期末時点の空室率は4.2 %となり、前四半期比0.8ポイントの上昇、今後は、空室率は若干上昇するもののバランスの目安とされる4-5%の水準にとどまると予想されますが、賃料は当面下落が続くと考察されます。
※JLL定義 東京Aグレードオフィス(エリア:東京都:千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区、延床面積:30,000㎡(9,075坪)階層:20階以上、基準階床面積:1,000㎡以上、竣工:1990年以降)を対象とする
東京トレンド・お勧めエリア
東京駅の八重洲口から日本橋にかけて、今年竣工した八重洲ミッドタウンを中心に再開発されます。
今後2027年にかけて、大規模な再開発が続きますが、新築ビルの賃料は八重洲エリアでは5万円程度と、同じ東京駅を最寄駅とする、駅の反対側の丸の内エリアと比較すると安価です。八重洲エリアは東京の玄関口として、日本全国につながる新幹線をはじめ、JR、地下鉄、バスなどのターミナル拠点の交通利便性に優れています。八重洲ミットタウンの様な、オフィス・商業施設・ホテル・小学校等のミクストユースな大規模複合再開ビルが竣工する事によって、オフィスワーカーが仕事をするだけの場所としての魅力も豊富です。食事を楽しむ人や寛ぐ人など様々な街との付き合いが生まれ 日本橋界隈の歴史と融合された新たな魅力を作り、ますます活気のある街に生まれ変わります。八重洲・日本橋界隈は街の競争力アップにより、賃貸オフィスビルの賃料は維持していくと思われます。
大阪エリアのオフィス賃貸相場と動向
都心2区(中央区・北区)の2022年第3四半期末時点のAグレードオフィス賃料は月額坪単価22,667円です。前期比218円/坪の下落、前年比924円/坪の下落でした。第3四半期末時点の空室率は3.4%となり、前期比0.1ポイント低下しました。空室率の改善に伴い賃料の下落もやや減速しましたが、賃貸市場では2022年下半期に新規供給が予定されていることから、空室率は再び緩やかに上昇し、賃料は緩やかな下落が続くと予想されます。
※大阪Aグレードオフィス(エリア:大阪市中央区・北区、延床面積:15,000㎡以上、基準階床面積:600㎡以上)を対象とする
大阪トレンド・お勧めエリア
淀屋橋から本町界隈の御堂筋沿いにかけて、既存の高さ規制が撤廃されて、超高層ビルが建てられるようになりました。また、2022年以降に順次竣工する新築物件の供給に伴い1,000坪以上の大型の面積を有する企業の選択肢が増えました。これによる、 本町界隈の企業の従業員のウエルネスやサスティナビリティのニーズに合わせた、自社ビルの売却による移転や、再開発により、御堂筋沿いのエリアでは、今後2025年にかけて新規供給が続きます。 再開発で供給される大規模な新築ビルでは、テナントのニーズに応えて差別化を図るために、カフェやフリースペース働く場所を自由に選べるABW(Activity Based Working)の導入や、シェアオフィス・コワーキングスペースの標準化などを採用しています。現在、 これらの御堂筋沿いの新築ビルは、梅田エリアの新築ビルと比較して、価格は抑えられている傾向があります。
福岡エリアのオフィス賃貸相場と動向
2022年第3四半期末時点のAグレードオフィス賃料は月額19,523円/坪となり、前期比325円/坪の上昇となりました。一部のテナントでまとまった面積の撤退がみられたが、2022年第3四半期の空室率は2.2%に前期比横ばいにとどまり、 2%台と需給のひっ迫が続いています。既存ビルの需給がひっ迫し、新規供給予定のビルのテナント誘致も順調に進捗しているため、競争力のあるビルを中心に賃料設定を強めに見直す動きが見受けられます。2022年下半期はまとまった新規供給が予定されて空室率は再び上昇すると予想しますが、 空室率の上昇は新規供給が主因となるため、既存ビルへの影響は軽微にとどまるとみられ、賃料は全体としてはほぼ横ばいと予想されます。
※福岡Aグレードオフィス(エリア:福岡市中央区・博多区、延床面積:15,000㎡以上、基準階床面積:600㎡以上)を対象とする
福岡トレンド・お勧めエリア
福岡では天神のみならず、博多駅周辺エリアにも再開発が進み、オフィスマーケットエリアが大きくなりました。マーケットが大きくなっても、博多駅周辺エリアの博多駅徒歩5分圏内や、天神エリアは継続して人気があります。新築や築浅の賃貸オフィスでは、天神エリアの賃料が他のエリアと比較した場合、若干高い傾向にあり、トップビルでは30,000円/坪程度のオフィスビルもありますが、どのエリアも既存ビルは新築ビルに牽引されるように、賃料の横ばいから一部ビルでは上昇傾向も見られております。人の集客などが必要な企業は天神エリアを、JRや福岡空港までの利便性の良さと、商業性の高い天神地区では確保が難しい駐車場も、エリアよっては確保対応可能な博多地区は機動力を重視される企業へ、ニーズに応じた物件の検討は可能です。
主要都市の賃料動向を時計に見立てて「見える化」したJLL独自の市場分析ツールで、四半期ごとに発表しています。 賃料が概ね①賃料下落の加速、②賃料下落の減速(→底入れ)、③賃料上昇の加速、④賃料上昇の減速(→頭打ち)、というサイクルで変動することを前提とし、現在の賃料がそのサイクルのどこに位置するかを表示することで、賃料サイクルを示しています。