東京オフィス市場、さらなる飛躍はあるか

年始早々に突如放たれた再びの「黒田バズーカ」で、日本は史上初めてマイナス金利状態へと突入した。これによりさらなる不動産融資の積極化が予想されることから市場へは追い風となる可能性が高い。そうした追い風を市場はどうつかむことができるのか、今後の投資姿勢はどうなっていくのか、東京のオフィス市場の現状から今後の市場動向を探る。

好調なオフィス賃貸市場

直近の東京都心部のグレードAオフィス賃料の平均は35,500円、空室率は1.5%と、歴史的にみても極めて良好であるといえる。企業業績は回復に向かい、その結果として雇用の増加にともなうオフィススペースへの需要は増す一方である。都心のグレードAビルで大型の移転があったとしても内部増床で決まるケースがほとんどで、ハイクオリティかつまとまったオフィススペースを新規で借りようとしてもなかなか借りられないのが実情のようだ。こうした状況を背景に、都心部のオフィスビルの賃料は引き続き上昇傾向にある。

一方で新築のオフィスビルが2020年にかけて相当数の新規床が供給される見込みだ。こうしたオフィス床は募集当初は苦戦するものの竣工と同時にじわじわと成約が増えていき、結果的にそれほど時間がかかることなく満室稼動になるケースが多い。実際、東京駅近くのある新築ビルは竣工してから引き合いが多くなり、実際に成約にいたっているとのことだ。よって一時的に空室率は上昇するものの、大量の新規供給はほどなくして市場に吸収され、空室率も減少に転じると見られる。

また特に都心部の新築ビルはそれ自体にプレミアムがあるため、安易な値引きや長期のフリーレント期間を設ける必要性があまりない。したがってこうしたビルは最初から強気の賃料設定で勝負をかけてくる。このような状況が続く限り賃料が下落するというシナリオは描きにくい。

激しさを増す物件取得競争

オフィス賃料に明るい未来が待っているとすれば、当然都心部オフィスビルへの投資意欲もますます強いものになるといえる。投資家の投資熱は価格の高騰、すなわち投資利回りの低下という形で現れている。投資市場に出回るビルは中~小規模のグレードBビルが中心だが、過去6ヶ月間で取引された東京都心5区の利回りのほとんどが4%以下の水準である。なかには3%台前半での取引も複数確認され、取得競争が激化している状況がうかがえる。

これに加え、マイナス金利による不動産融資の受けやすさが取得競争にさらなる油を注ぐ。買い手候補にとってはまさに千載一遇のチャンスで、これまで手の届かなかった価格帯へとレバレッジを効かせて到達することも場合によっては可能となる。このような手法で取得すればキャッシュ・オン・キャッシュの利回りではそれほど低くなく、かつ賃料上昇のシナリオが描ければ、運用期間中の内部成長率(IRR)も満足のいく水準に達することが考えられ、いわゆる「突っ込んで」買ったとしても相応のリターンは確保できる公算が高い。

さらなる飛躍へ

ただしこのマイナス金利は買い手候補だけではなく、現時点でビルを保有しているオーナーへも平等に恩恵を与える。オーナーにとってみれば有利な金利で借り換えができれば、引き続き賃料上昇の恩恵を受けながら運用することが出来るため、都心の優良ビルを無理に売却する必要性が少なくなる。その結果として市場に投入される優良物件がより一層少なくなる可能性が出てくることも考えられる。また売主と買主の価格ギャップがさらに広がる状況により取引が成立しない場合も懸念される。

不動産取引に限っていえば「諸刃の剣」ともいえるマイナス金利導入だが、市場の活性化につながることは間違いない。また企業の生産活動においてもプラスの効果が発揮されると期待されることから、引き続きオフィススペースへの引き合いは強い状態が続くものと予想される。賃料上昇局面での優良オフィススペースの確保競争と、価格高騰局面での優良オフィスビルの取得競争はさらに鋭さを増しながら続いていくと予想される。

著者:
内藤 康二
JLL日本 キャピタルマーケッツ事業部 リサーチダイレクター